第56話 北欧神話の創世記(2)|世界創造

2025/12/19

神話 北欧神話

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北欧神話の始まりは、なんでも燃やし尽くしてしまう業火の世界ムスベルヘイムの熱風と、極寒のニフルヘイムから流れてきた毒の川から立ち上る霧とが出会ったところから始まります。がらんどう(ギンヌンガガップ)の淵で両者が出会い、凝り固まって生まれた霧の巨人ユミルと霧の牝牛アウズンブラが世界を目覚めさせました。

ユミルは自分の汗から巨人の子孫を生んでいき、アウズンブラは塩味を帯びた氷塊を舐めて中から神々の祖先ブーリを生み出し、ブーリの息子ボルは巨人の娘と結婚して、子孫を増やしていきます。

世界の始まりの時に生まれた巨人も神々も、もとはといえば毒を含んだ川の水から生まれました。つまりこの世界のすべての生き物は心の奥底に毒をもち、邪悪なところがある、というのが北欧神話の根っこにあるということを意味しているように思います。

時に神々は巨人と戦い、時に巨人と愛し合い、時に凶暴な巨人は簡単に騙される愚か者を演じ、強力な能力をもつ神々は時に奸計を用いて騙したりします。

つまり、絶対善の神もいなければ絶対悪の巨人もない、というのが北欧の神話なのです。善人の顔をもつ人が心に暗闇をもち、悪事を働く人でも優しい一面があるというのが人というもの。人間的な、あまりに人間的な神話なのです。

北欧の古代人が語る神話の創世記は、そんな不条理な世界で起こった、巨人と神々の戦いから始まりました。

【目次】
○世界創造
・霧の巨人ユミルの身体を材料に
・人間の創造
・小人の創造
○世界のかたち
・世界樹ユグドラシル
・三層の世界
○まとめ

世界創造


巨人と神々が共存して生活していくうち、霧の巨人ユミルとその子孫たちの乱暴ぶりが、神々には我慢できなくなっていきました。そこで3人の神々オーディン、ヴィリ、ヴェーはユミルを狩り、その身体を材料にして世界を創ることにしたのです。

霧の巨人ユミルの身体を材料に

神々はユミルを倒し、その身体を材料に世界を創ります。
  • 傷口から流れ出た血液は洪水となってあふれ、巨人ベルゲルミルとその妻以外の巨人たちを溺れさせてしまう
  • 神々はユミルの身体をギンヌンガガップへ投げ込み世界を創った
    • 肉体は大地に
    • 壊れていない骨は山脈に
    • 歯とあごと粉々になった骨は、岩や玉石に
  • ユミルの渦巻く血液を使って湖を創り、大地をこしらえた後にその周りをめぐらせて海とした
  • 神々はユミルの頭蓋骨を持ち上げて天空とし、東・西・南・北という4人の小人に空を支えさせた
  • 南のムスベルヘイムから飛んできた火花と燠(おき)をつかまえ、太陽と月と星々と名づけて天空に置いた

そのようにして神々は世界を創ったのです。

さて、乱暴な霧の巨人ユミルとその子孫はあらかた滅ぼしてしまいましたが、まだベルゲルミルとその妻は生き残り、子孫を増やしていました。この巨人たちもまだ凶暴さを残していましたので、神々は自分たちの守りを考えざるを得ませんでした。

そこで神々は岸辺のあたりに仕切りを作り、そこに巨人たちを住まわせることにします。その巨人たちの土地をヨーツンヘイムと呼びました。そして、自分たちは巨人と離れた広大な場所に垣根を作ってそこに住むことにしたのです。垣根はユミルのまつ毛を使い、この場所をミッドガルドと呼ぶことにしました。

人間の創造

ある日、オーディンとヴィリとヴェーの3人の神が波打ち際を歩いていると、2本の根のついた木を見つけました。一本はトネリコ、もう一本はニレの木です。そこで神々はその2本の木に命を与え、男女一組の最初の人間をつくりました。

オーディンは魂を吹き込み、ヴィリは鋭い知力と感じやすい心を与え、ヴェーは聴覚や視覚などの感覚機関をそなえつけました。

そして男をアスク、女をアムブラと名付けたのです。このふたりがすべての人間の祖先となりました。

小人の創造

北欧神話には、神々、巨人、人間、小人のほかにも、トロル、エルフといった生き物が登場します。

しかし、その成り立ちの物語は現存しません。北欧の神話はスカルド詩人という吟遊詩人によって語られ、北欧人はルーンという文字をもってはいましたが、長い物語を書き記す習慣はありませんでした。

文字に残さなければ、音としての言葉は時代と共に風化し変形し、やがて消えていきます。トロルやエルフといった存在は個々の神話のなかに時々顔を出すので、これらの生き物は人々の間で知られていたことは確かだと思いますが、その成立は霧の向こうに隠れて見えません。

ただ小人についてはその成り立ちがわかっています。小人は、ユミルの中でうごめいていたウジ虫です。それがユミルの中からはい出てくると、神々はそのウジ虫に人間の知力と姿を与えました。

そうやって生まれた小人たちは丘や山々の下の、岩の部屋や洞窟に棲みつきました。常に暗い中で暮らす生き物ですが、彼らのモノ作りの能力には秀でたものがあり、神々の宝物を作ったりします。

これは、ケルト神話に登場するレプラホーン(第33話参照)ととてもよく似ています。レブラホーンは、靴を修理する妖精職人です。気難しくけちんぼう。職人としては秀でた技をもちますが、用心深くめったに姿を現しません。莫大な財宝を地下に隠し持っているとも言われています。

どちらが先かはわかりませんが、両者は融合してできたもののように思えますね。もちろん私は学者ではないので、断定はできません。

世界のかたち


北欧神話で語られる「世界」は、間を開けて縦に並べた3枚の板のようなものをイメージすると、わかりやすいかもしれません。

世界の頂上にはユグドラシルという世界樹があり、下の3つの世界に1本ずつ根を下ろし、その根のそばには泉があります。

世界樹ユグドラシル

世界樹ユグドラシルは巨大なトネリコの木です。

起源も知られず世界の終末(ラグナレク)を迎えても生き延びるこの永遠の木は、アイスランドに北欧神話を伝えるエッダを発見したスノッリ・ストルルソン(注1)によって「その枝は全世界の上に拡がり、天にまで届く」と表現されました。それほど広大だったということです。

その根は3本あり、その下の三層の世界に1本ずつ繋がっています。それぞれの世界に伸びた根のそばには泉があり、それぞれ特別な力をたたえています。

ユグドラシルは守護の木として知られ、その中に棲みついている動物たちを養っていますが、同時に彼らから害も与えられていました。

ニトヘグ竜は根をかじり、鹿やヤギは枝の間を跳ね回り新芽を食いちぎります。一匹のリスのラタトスクがニトヘグ竜の悪口をたずさえて幹を登ったり降りたりして、ユグドラシルのてっぺんに停まっている鷲に運びます。ユグドラシルはそんな苦しみに耐えながら、大きな心で彼らを養うのです。

それだけではありません。ラグナレクが近づいた時にはふるえて世界に警告を発し、ひと組の人間の男女リーヴとリーヴァスラシルを自分のウロの中にかくまい、その大厄災から保護して彼らもユグドラシルも生き延びます。

つまりユグドラシルは、世界の始まりと終わり、そして再生というサイクルを見届ける存在であるといえるでしょう。また三層にわたる世界に根を下ろすこの木は世界の全てを抱き、天上から地獄までの世界を見守ってきた木でもあるのです。

三層の世界

先ほど北欧人は世界を、間を開けて縦に並べた3枚の板のようなものだと考えた、とお話ししました。それぞれの世界について、お話しします。

・一番上の世界

ユグドラシルの足元に広がる一番上の世界は、4つのエリアに分かれます。

ひとつはアースガルド。これは世界の創造に関わったオーディンなどの、アース神族と呼ばれる神々が住まうエリアです。オーディンが主神となり12人の神々と12人の女神が住んでいます。加えて異分子として、ロキと呼ばれる、巨人族に属しながらオーディンとの血の契りにより出入りを許されたトリックスター(注2)もいます。

次はヴァナヘイムというエリア。神々はアース神族の他に、ヴァナ神族と呼ばれる神々もいます。ふたつの神族は長い間争っていましたが、ついには和解をします。その和解を確実にするためふたつの神族は人質を交換しました(注3)。そのヴァナ神族が住まうエリアが、ヴァナヘイムです。

アールヴヘイムというエリアもあります。これは「光の妖精」が住む世界、いわゆる光のエルフが住む世界で、美しくて光り輝く妖精たちです。エルフにはもう一種類あり「黒妖精」と呼ばれます。こちらは一段下の世界に住んでいます。

異色なのはヴァルハラというエリアです。ここは戦いに敗れて死んだ人間のなかから、戦いの女神ヴァルキューリ(ワルキューレ)に選ばれて連れてこられた英雄の魂が住まうところです。彼らは日中、身体を鍛えて仲間と実戦を想定した訓練(殺し合い)をし、夜は蘇って毎晩開かれる大宴会を楽しみます。そうやって来たるべきラグナレクに備えている戦士たちのためのエリアなのです。

・二番目の世界

ここには人間たちが住んでいます。ミッドガルドといます。人間たちは明確に三つの身分に分かれ、それは運命を決める女神ノルンたちによって固定されて変えることはできません。底辺の人間は農奴と呼ばれる、いわゆる奴隷です。その上は農民たち。貧しいですが清潔な家に住み賢明な人々です。最高位は貴族や戦士です。広大な屋敷をもち優雅な生活を送っています。

巨人たちもここにいます。ヨーツンヘイムと呼ばれるエリアです。オーディンは天上の世界から全てを見渡せる玉座に座り、ヨーツンハイムの様子を見ることもあります。神々は、時々美しい巨人族の女性を見つけ、姿を変えて忍んでいくこともあります。それがまた、トラブルに発展することもあるのですが。

先ほどもお話ししましたが、黒妖精(黒エルフ)のエリアもここにあります。スヴァルトアールヴヘイムと呼ばれます。

また、小人たちのエリアも用意されています。さきほどお話ししたウジ虫から人間の姿になった者たちです。このエリアはニダヴェリールと呼ばれますが、その住まいは洞窟や地下の部屋になります。

・三番目の世界

最下層にあるこの世界は、いわゆる死後の世界です。英雄でもない普通の人間は、この暗闇に閉ざされた世界へ落ちていきます。死者がヘルと呼ばれる城壁をくぐり抜けると、ニフルヘイムという厳しい寒さと暗黒の世界に入っていきます。

まだ大地などなかった頃、ギンヌンガガップというがらんどうを挟んで、北に極寒エリアのニフルヘイムが、南には灼熱のムスベルヘイムがあったというお話を前話でしました。最下層にニフルヘイムが存在するということは、それ以外の第一層と第二層はムスベルヘイムが変化したものとも考えられますね。

第三層の世界は、ヘルという名前の恐ろしい女の怪物が支配しています。この女は先ほど登場したロキの娘で、上半身は生気がありますが下半身は死んで黒く腐っています。

ロキはヘルのほか、2匹の怪物(大蛇ヨルムンガンドと巨大狼フェンリル)も生んでおり、ラグナロクの時には、ロキは神々に反旗を翻し、この子ども達を引き連れて戦いを挑むことになります。

ユグドラシルを苦しめるニトヘグという毒竜もここに住んでいます。

・海と虹

二番目の層の周りは海で囲まれていて、ロキの子どもであるヨルムンガンドという大蛇は、成長してからはこの海に沿ってぐるりとこの第二層を囲み、自分で自分の尻尾を噛むほど巨大に成長しました。

また、ビフレストという炎に包まれた虹のかけ橋が、第二層と第一層の間を繋いでいます。神々はこの橋を通ってふたつの層を行き来します。

・3つの泉

それぞれの層にはユグドラシルの3本の根が届き、そのそばにはそれぞれ泉があります。第一層にはウルドの泉、第二層はミーミルの泉、そして第三層にはフヴェルゲルミルの泉です。

ユグドラシルから第一層に伸びた根のそばにはウルドの泉があり、3人の運命の女神ノルン(ウルズ、ヴァルザンディ、スクルド)が泉を管理し、神々や人間の運命を決めています。ウルズとは過去、ヴェルザンディは現在、スクルドは未来という意味です。

3人のノルンはまた、ユグドラシルが腐らないように泉の聖なる水と泥を混ぜて根にふりかけ、ユグドラシルが活力を保てるように管理しています。

神々はこの泉に集まり、会議や法廷を開いたりします。ここは神々にとっての議場であり、世界の重要な事柄や裁きを行っているのです。

ミーミルの泉は巨人のエリアのヨーツンハヘイムに伸びた根のそばにあります。ミーミルの泉は、「知恵と記憶の源」とされ、計り知れないほどの知恵と理解力がそこに隠されているといわれています。

泉を守る番人は賢者ミーミル。彼は毎日、伝説の角笛ギャラルホルンを使って泉の水を飲み、深い知恵を蓄えています。

アース神族の主神オーディンは、どうしてもこの泉の水を飲んで深い知恵を手に入れたいと思いました。しかしその望みは絶望的に難しく、ミーミルは交換条件として彼の大切なものを差し出せと要求しました。オーディンは自分の片目をえぐり出し、それを泉に沈めることでようやく究極の知恵を手に入れることができました。

独眼のオーディンは眼力が鋭く、その眼ににらまれるとどんな強い神も震え上がり、その場にひれ伏します。しかし正体を知られたくないオーディンは、いつも大きな帽子をかぶって、失ったほうの眼を他者に見せないようにしているといわれています。

オーディンはこのほかにも、自分の身体に槍を刺してユグドラシルに逆さ吊りになるという苦行(注4)したり、詩の心を与えるという蜜酒を飲んだりして、自らの知恵を深めていきますが、その過程で神々も巨人も人間もすべて滅亡するラグナロクが訪れることを知ります。

その運命を知っていながら、勇者を集め戦いに備えます。自分が死ぬことを知っていながら、なおも戦いの準備をし、武勇を後年に残す。それが彼らの美学なのでしょう。

最下層にあるフヴェルゲルミル(湧き立つ鍋)の泉は、大変恐ろしい泉です。ここから世界中のあらゆる川の源流が流れ出す場所だとされています。

この泉の近くにはニトヘグ竜のほか無数の蛇が棲んでおり、絶えずユグドラシルの根をかじって木を弱らせようとしています。

ウルズの泉が「神々の秩序」、ミーミルの泉が「知恵」を象徴するのに対し、フヴェルゲルミルの泉は「混沌」や「死」に近い性質をもっているのです。

まとめ

古代北欧人は、何もない宇宙のまんなかに巨大ながらんどうギンヌンガガップがあり、その北には極寒のニフルヘイム、南には灼熱のムスベルヘイムを配置し、正反対の性質のものがギンヌンガガップの淵で出会って生命を産んだと考えました。

その生命は、精神の底に善なるものと邪悪なものをもっています。

この矛盾する精神が成長と闘争の歴史を刻ませ、最後には滅亡のラグナロクを迎えるというのが、北欧神話であることが見えてきました。

この矛盾は生命の精神だけではありません。世界の構成もそれを表しています。

第一層と第二層は生きるための活力あふれる世界ですが、第三層は死の世界。ヘルに棲むニトヘグ竜と無数の蛇たちはユグドラシルの根をかじり、世界を刻々と滅亡に向かわせています。

この行いをリスのラタトスクはユグドラシルのてっぺんに駆け上って、世界を見守る鷲にニトヘグ竜の悪口を告げ口します。またラタトスクは駆け降りてニトヘグ竜に告げ口をします。そうやってラタトスクは、両者が対立していくことを楽しんでいるのです。

世界は誕生するやいなや自分のなかに矛盾する心をもつ生命を生み、混乱を引き起こしてやがて滅亡する。しかし滅亡の中に次の世界の種を残しており、やがて世界は再生する。

北欧神話とは、そんな「死と再生」の物語を北欧人流に語ったものなのかなと思います。

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注1 スノッリ・ストルルソン

スノッリ・ストルルソン
スノッリ・ストルルソン(1179 - 1241)は、中世アイスランドの歴史家、詩人、政治家。北欧神話や北欧の歴史を後世に伝える上で、最も重要な人物の一人。

1. 主な著作

・『散文のエッダ』(スノッリのエッダ)
北欧神話の体系的な解説書であり、詩の技法(スカルド詩)を教えるための入門書。オーディンやトールといった神々の物語が詳しく記されており、現在知られている北欧神話の知識の多くは、この書物に由来している

・『ヘイムスクリングラ』

ノルウェーの歴代国王の歴史を記した壮大なサガ(物語)。伝説的な神代の時代(ユングリング家)から12世紀後半までの歴史を網羅する

・『エギルのサガ』(推定)

伝説的な詩人エギル・スカルラグリームソンの生涯を描いたサガで、スノッリが著者であるという説が有力

注2 トリックスター

「トリックスター(Trickster)」は、神話、伝説、民話の中で、神や自然界の秩序を破り、いたずらを仕掛けて物語をかき回すキャラクターのこと。

・トリックスターの主な特徴と役割
  • 単なる「悪役」ではなく、非常に複雑で矛盾した性格をもっている。善と悪、神と人間、破壊と創造、男と女など、相反する二つの要素の間を自由に行き来する。
  • 多くの神話で、動物や別人に姿を変える(シェイプシフト)能力を持っている。
  • 筋力ではなく、機転や嘘、知略を使って目的を達成する。いたずらの結果として、人間に火や道具、知恵をもたらすなど、図らずも文明の発展に貢献することがある。
「トリックスターは貧欲で、利己的で、裏切りやすい。彼は動物の姿をとる。彼は狡猾な、しばしば厭らしい状況において出現するが、それでも彼は太陽の光や火のように、人間に利益を与える一種の文化的英雄と見られるかもしれない。時としては彼は想像者としてさえも現れる。彼は男性の姿も女性の姿もとることができ、子供さえ生むことができる。彼は事実一種の半ばコミックなシャーマンであり、神と英雄の中間にあるが、それでも神と英雄の両者に異質な道化者の要素の強い一撃で、そこに投げ込まれているのである。」   エリス・ダヴィッドソン

注3 人質を交換しました

アース神族とヴァン神族の戦いは、魔女グルヴェイグがオーディンの館に訪ねてきたことに端を発する。

グルヴェイグがオーディンの館や他の神々の館で黄金への欲望ばかり話すので、怒り心頭に発した神々は彼女を三度焼き殺そうとするが、彼女はその度に生き返ってくる。恐れをなしたアース神族と召使は彼女をヘイド(不気味に輝く者)と呼んだ。それを聞いたヴァン神族はアース神族に対して怒り、アース神族に戦いを仕掛ける。

しかし決着はつかず、会議を開いて人質を交換することで和議を結ぶことにした。

ヴァン神族からは、ニヨルドとフレイとその娘フレイヤ、ヴァン神族の一番の賢者クヴァンシルがアース神族のもとへ、アース親族からは足長のヘーニルと賢いミーミルをヴァン神族のもとに送った。

アース神族はニヨルドとフレイを偉い司祭として迎え、フレイヤは聖列されて犠牲祭の女司祭になる。フレイヤはまた、ヴァナヘイムでよく知られた魔法のすべてを身につけた。

いっぽうヴァン神族は、ヘーニルを彼らの指導者のひとりに据え、かたわらにミーミルをおいて助言者に任じた。しかしのちに、ミーミルがその任を解かれヘーニルが独りになると、いつも「まあ、他の人たちに決めてもらいましょう」としか言わなくなった。騙されたと思った神々は彼の首を切り落としてしまう。

そのことを予想していたオーディンはヘーニルの首を取り戻して腐らないように薬草を塗り、舌を与えて話す力を与え、オーディンの「知恵」とした。

注4 苦行

ミーミルの泉で片目を犠牲にして、世界の過去・現在・未来を見通す知恵をつけたというエピソードのほかに次のような苦行も甘んじて受けた。

・自分に自分自身を生贄としてささげる

世界樹ユグドラシルの枝に首を吊り自分の槍で自らを刺し九日九晩吊るされ、その間は一切の食物も水も口にせずに耐えた。自分に自分自身を捧げるという究極の生贄となることにより、浮かび上がってきたルーン文字を見つけて掴み取り、その文字がもつ魔力と知識を手に入れた。

オーディンの知識に対する欲望は並々ならぬものがあり、苦行以外にも知恵の源である「詩の蜜酒」を巨人から奪ったりしている。

・苦行の意味

このような苦行をオーディンがあえて冒すのは、彼自身に神々も人間も滅びるというラグナロクへの恐怖があり、なんとかして食い止めたいという思いがあったといわれている。しかし、これらの知識を得るためには痛みや欠落(片目、飢え、傷)を代償にしなければならないという覚悟もあった。


●参考にした図書 

『北欧神話物語』K・クロスリイ・ホランド・著 山室静/米原まり子・訳 青土社

この本は3部に分かれており、「はしがき」に多くのページを割いてこの本の概要を解説し、「神話」の章は大地創造からラグナロクまでの各神話、そして「北欧神話ノート」で各神話についての解説が書かれている。






『北欧神話と伝説』ヴィルヘルム・グレンベック・著 山室静・訳 講談社学術文庫

荒涼峻厳な世界で育まれた北の民の精神を語るエッダ、サガ、神話、伝説を読む。
ヨーロッパ北部周縁の民=ゲルマン人は、キリスト教とは異なる独自の北方的世界観を有していた。古の神々と英雄を謳い伝える『エッダ』と『サガ』。善悪二元の対立抗争、馬への強い信仰、バイキングに受け継がれた復讐の義務……。荒涼にして寒貧な世界で育まれた峻厳偉大なる精神を描く伝説の魅力に迫る。北欧人の奥深い神話と信仰世界への入門書。(講談社)




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自己紹介

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明治大学文学部を卒業した後、ラボ教育センターという、子どものことばと心を育てることを社是とした企業に30数年間、勤めてきました。 全国にラボ・パーティという「教室」があり、そこで英語の物語を使って子どものことば(英語と日本語)を育てる活動が毎週行われています。 私はそこで、社会人人生の半分を指導者・会員の募集、研修の実施、キャンプの運営や海外への引率などに、後半の人生を物語の制作や会員および指導者の雑誌や新聞をつくる仕事に従事してきました。 このブログでは、私が触れてきた物語を起点として、それが創られた歴史や文化などを改めて研究し、発表する場にしたいと思っています。

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