ケルトについては、調べていけばいくほど謎も深く、興味深いこともたくさんあるので、今回の特集でお話したいことのすべては書ききれないと思います。
そこで今回の特集が終わっても、また何度か改めて取り上げることがあろうかと思います。たとえばハロウィーンなどもケルトに大いに関係がありますので、今、お話しするよりはその時期になってからお話ししようかなと思っています。
今回の特集では、ケルトについて大まかに語ることに集中していこうと思いますので、お付き合いいただければうれしいです。
なお、さまざまな話題が飛び飛びになったとしても、「ラベル(オレンジ色の地に白文字)」をクリック(タップ)すると関係の話題だけが集められます。ある特集についてまとめてご覧になりたい場合はラベルをクリック(タップ)してみてください。
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ラボ教育センタ―刊『夏の夜の夢』 |
パッと考えてみただけでも、妖精の出てくる物語はたくさんありますし、中世騎士物語にしてもケルトの神話や英雄譚が影響を与えています。
シェイクスピアの『夏の夜の夢』では単に妖精がでてくるというだけでなく、「森」「夜」「夏至の頃のできごと」といったキーワードにもケルトとの深い関係がしのばれます。
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ラボ教育センター刊『妖精のめ牛』 |
それどころかいろいろと調べていくうちに、日本の昔話である『浦島太郎』や『こぶとりじいさん』とそっくりなケルトの昔話があること、さらに『ももたろう』の鬼ヶ島はケルトの人々が考えた異界と共通しているところがあるということも知って、とても驚きました。
私には、ケルトの人々と日本人、もっといえばネイティブ・アメリカンの祖先は共通なのではないかと思えてきたりします。もちろん私は文化人類学者ではありませんので、勝手な思い込みに違いはありません。眉につばをつけながらお聞きいただければ幸いです。
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ちょっと、与太話をします。
私の好きな小説家に星新一がいます。ショートショートのSF(サイエンス・フィクション)小説を書く人で、その奇想天外さに、読み終わると脳みそが引っ掻き回されたような感覚になります。私の話を聞いてくださる方のなかにも、お好きな方はいらっしゃるのではないでしょうか。
そんな彼の小説に、次のようなお話があります。なにしろ昔読んだきりなので「このようなお話だったな」くらいにしか覚えておらず、ところどころ間違っていたり私の創作が入っていたりしますが、そこはご容赦ください。
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考古学者たちが発掘調査をしていると、古代の遺物らしきものを発見します。おそらく数千年前のものだろうと思われました。
それはかなり損傷のひどいものでしたが、かけらを集めて復元を試みてみますと、円筒形をしており、中が空洞になっていることがわかりました。
筒の一方は石で作られた重しがつけられており、もう一方はお椀を伏せたようなフタがついています。フタの下には横一文字の切込みが入れられていました。
学会では、これはなんだろうとカンカンガクガクの話し合いになり、世間でも話題にのぼります。
最終的に学会は、古代の宗教に関係するものだろうと結論づけました。
空洞になっているのは、そこに精霊が宿る空間を用意しているからであり、切込みは精霊がはいるための入り口。人々はこの遺物にお供えをしたり礼拝したりしたのだろう、というのが学会の見解です。
さらに調べていくと、発見された時点では白っぽい外観をしていましたが、科学技術を駆使した調査により、それが赤く塗装されていたこと、また横一文字の切込みの下には「〒」という神の印が、白く塗られてレリーフされていることもわかってきたのです。
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一定の年齢以上の方ならピンとこられたのではないでしょうか。
そうです。この遺物の正体は、少し前まで町のいたるところにあった丸い郵便ポストです。それを未来の考古学者が、神像と結論したのですね。
「丸い郵便ポスト」って何? と思われる方はこの文章の最下段に写真を載せていますのでご確認ください。今の郵便ポストは鉄製の四角い箱ですものね。
ちなみに私の住んでいる小平市では、「まるいポストのまち こだいら」と銘打って、今もこの郵便ポストを市内のあちらこちらに配置してアピールしていますが、果たして功を奏しているのかな?
前置きが長くなりました。
タイトルに「霧のかなたに霞むケルト」とつけたのは、現在でも「ケルトとは何か」ということがはっきりわかっておらず、さまざまな議論が戦わされている状況なので、ケルトの探求はまるで濃霧の中を目的地目指して歩いているようなものだと思ってこのようなタイトルにしました。
最近では「ケルトなどという民族は存在しなかったのだ」という主張さえあるくらいです。彼らがいうには、ケルトあるいはガリアという名称は、ギリシアやローマの人々がローマから見て北西のあたりに住んでいる人々に対するラベル付けをしただけだ、ということなのですね。
そうした論争・探求のなかに、郵便ポストを神像と誤解するようなこともあるのかな、なんて思ったりします。でも学者ではない私は、そういった誤解も楽しいかな、なんて思ったりもしますが。
それにしても、ケルトについては、どうしてこのように右から左まで異なる説が出てくるのでしょうか。
古代ケルトを知るための資料
一番の問題は、古代ケルト人自身の記した文献が、ほとんど残っていないということです。
思想や歴史、予言といったものを語り、儀式を行い、魔法を使ったとされるドゥルイド僧は王よりも権威があり、教義や思想など宗教上のことについて文字にあらわすことは禁じていた、といわれています。
オガム文字という文字はもっていましたが、碑文に書かれた王の名前だったり貨幣に刻印された文字といった、ほんの断片的なものしか残っていないので、彼らの文化・思想を知るにはとうていおぼつかないものなのです。
それでもケルトの神話、伝説、文化、風俗はこのようなものだと現代に伝えられていますが、そのもととなった資料はケルト人が遺したものではありません。
それはたとえば、古代ローマのユリウス・カエサル(ジュリアス・シーザー)が書いたガリア遠征の記録『ガリア戦記』に記述されたケルトの風俗についてであったり、ギリシアの歴史家が著したものであったり、あるいはキリスト教の宣教師が書き遺したものが主なのです。
こういった文献ならば膨大に存在します。しかし、それらは紀元前後に書かれたものなので、それより昔の古代ケルトのことまで表しているかどうかは微妙です。
これらの文献・資料からケルトを想像するわけですが、遺された文献・資料は外部の人が観察したものなので、どうしても先入観や誤解が混じりこむことがありえます。また、キリスト教宣教師たちが書き遺したものは、キリスト教を布教するためにケルトの神話を援用し、ある意味「創作」している可能性があると最近では考えられています。
文献・資料以外にケルトの文化・文明を知るための方法としては、考古学的アプローチもありますが、郵便ポストを神像と誤解するような可能性もあるでしょう。
かつて、巨石遺跡であるストーンサークル(ドルメン)はケルト人が建造したと考えられていましたが、今では、ケルト人が歴史に登場するよりもさらに2000年以上の昔に建造されたものだ、とされています。
ケルト人はこの古代の遺跡を「再利用」して天体を観察したり、呪術的な儀式を行う場所としたり、墓所としたり、あるいはその地下に妖精たちが住む壮麗な都市があるとした、などと現代のケルト研究者は考えているようです。
遺伝子工学からのアプローチもあります。ケルトの神話にあるように、大陸からブリテン島やアイルランドに移住してきたとされることが本当かどうかを、遺伝子によって調べようというものです。遺伝子工学によれば大陸の遺伝子とアイルランド島の人々の遺伝子に共通なものがあることから、大陸から渡ってきた可能性は高いとしています。しかしこれにもまた、課題はあるようです。
私のブログの立場
学術的な立場はいろいろあります。しかし私のブログでは、物語を起点としていろんなことを調べてみようというものです。
私がとりあげたい物語はこれまでの通説に影響されたものばかりですので、学問的にはどうあれ「ロマンティックなケルト」をお話していきたいと思います。
ただこういったケルト像というものが、必ずしも真実のケルトだとは限らない、ということはあらかじめ知っていただきたくて、第22話をお話ししました。
to be continued
ルネこだいらという公共施設の前には、巨大な郵便ポストのモニュメントが設置されています。
『ケルトの世界 ―神話と歴史のあいだ』(疋田隆康著 ちくま新書)
2022年11月10日初版のこの本は、最新の知見を基に通説を再評価し、アイルランドの神話を取っ掛かりにケルト人とその社会、文化、風俗を再考することをテーマとしています。
通説を紹介し、それに対する否定論にどのようなものがあるかが紹介されています。
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これまでも今後も、私はネットに転がっている情報ではなく、実際に買った書籍を参考にしてお話をしていきたいと思っています(筆休めの回は別)。
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どうぞよろしくお願いします。
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