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さて、いよいよ北欧神話のクライマックス、ラグナロクについてお話を始めます。
今話はその第一話目。
北欧神話に登場する神々は、キリスト教やイスラム教、ユダヤ教などの一神教に見られるような、絶対善の神々ではありませんでした。
それどころか、ほぼ同時代にあったはずのギリシア神話やローマ神話に登場する神々とは異なり、死ぬことのない神々でもなかったのです。
オーディンは、巫女の予言によって、神々がラグナロク(世界の終末)で滅びる運命にあることをすでに悟っていました。
ラグナロクの根本的な原因は何だったのでしょうか。
私が北欧神話を語る際に参考にしている『北欧神話』(クロスリィ・ホランド著)によれば、その発端はアース神族とヴァン神族の抗争にまでさかのぼります(第58話参照)。
両神族の抗争後、アースガルド(アース神族の国)の壊れた城壁を再建するために雇われた建築師(その正体は巨人の変装)を、アース神族が裏切ったこと。
それこそが、神々の破滅へと続く道の始まりとなったということです。
⚪︎「アスガルドの城壁づくり 」あらすじ
⚪︎「城壁づくり」がラグナロクの原因となった理由
・世界の実在と神の威光の喪失
・古代北欧の「血讐(けっしゅう)の掟」
・破滅を加速させたオーディンの世界経営の失敗
⚪︎結論
「アースガルドの城壁づくり」あらすじ
アース神族とヴァン神族の抗争で壊れたアースガルドの城壁を修復するため、ある建築士が修理を申し出ました。
しかし、その報酬として要求したのが「女神フレイヤを妻にし、さらに太陽と月をください」というものだったため、神々は絶対容認できないこととして拒絶します。
女神フレイヤは黄金の涙を流して驚き悲しみました。
しかし、その申し出を断るには忍びないと考えたロキは、ある提案をしました。
「一人で半年以内に完成させる」という極めて厳しい条件を課し、もし約束が守れなければ報酬の要求を無効にする、という内容です。
神々もこの案に賛同し、建築士にその条件を言い渡しました。
建築士は一瞬ひるみますが、愛馬スヴァディルファリを助手に使う許可を求め、神々も承諾します。そこで、建築士は工事を始めました。
建築士は、じつは巨人の変装であり、スヴァディルファリは怪力をもった馬でした。
二人は驚異的な速さで城壁を修理していきます。
やがて期限内に工事が完成しそうになった時、焦った神々は案を出したロキを責めますが、「なんとか対処しますから」といって罰せられることのないようにと哀願し、神々もとりあえず彼を見守ることにしました。
ロキの策略は、牝馬に化けてスヴァディルファリを誘惑し、作業を妨害することでした。
作戦は見事成功し、ロキとスヴァディルファリはふたりで遊んでばかり、という状況になったのです。
結局、期限内に完成させることはできず、騙されたことを怒って正体を現した巨人は、神々の前に立ちはだかります。
しかしその瞬間、トールの投げたミョルニルによって巨人は倒されてしまいました。
数ヶ月が経ち、牝馬の姿のロキとスヴァディルファリの間に、八本足の駿馬スレイプニルが誕生します。その馬はオーディンの愛馬となりました。
「城壁づくり」がラグナロクの原因となった理由
このエピソードがラグナロクの原因となった理由について、2つのことが考えられます。
いまひとつは誓いを破っただけでなく巨人の建築士を殺害したこと、です。
これが破滅への道の発端になったと、クロスリィ・ホランドはいいます。
世界の秩序と神の威光の喪失
巨人の化けた建築士が出した条件として、フレイヤと太陽と月を要求したということは、神々にとって受け入れがたいことではありました。
しかしながら神々は間違いなく契約をしたのであり、相手を殺して契約を無効にするなどということは、とんでもない過ちでした。
なぜなら神でありながら誓いを踏みにじるという行為は、「世界の秩序を守る力」や「神の威光」などというのは全くのでたらめだ、ということを証明してしまったことになるからです。
古代北欧の「血讐(けっしゅう)の掟」
古代北欧には、「血讐(けっしゅう)の掟」という不文律がありました。
どういうものかといいますと、ある一族の者が殺されたりひどい侮辱を受けた場合、残りの血縁者は、加害者やその一族に対して必ず復讐をしなければならない、あるいは相応の賠償を請求しなければならないという義務のことをいいます。
これは当時の人々にとって野蛮な行為ではなく、失われた名誉を回復し、社会の秩序を守るための、名誉ある正当な解決方法だと考えられていました。
神々が巨人族の一人を殺害したということになれば、この「血讐の掟」により、巨人は神々を打ち倒す権利を得たということになります。
神々と巨人族は明確な敵対関係に入り、いずれ互いを滅ぼし合う宿命を背負ってしまいました。
破滅を加速させたオーディンの世界経営の失敗
巨人族が神々に復讐をする権利を得たという「血の復讐」のフラグが立ったことで、オーディンは破滅を予感し、巫女の予言によりそれが確実であることを悟りました。
そこでオーディンは、それが現実化することを避けるため、あるいはできるだけ先延ばしすることを考えて準備を始めます。
それはこれまで見てきたように自身を犠牲にして知恵を得ることであったりするのですが、同時に、有能なエインヘリアル(戦士の魂)をヴァルハラに集めるために、わざと地上に混乱を起こし、人々が殺し合いをするという状況を作り出すということまでしました。
秩序の守護神が、わざと秩序を乱す行いをする、というこの矛盾。
またこの後の話で触れることになるのですが、ロキを拘束するという失敗も起こします。
ロキはいたずら者で、神々に多大な迷惑をかけることも多くありましたが、同時にロキの機転による策略が功を奏して神々が有利な立場に立てたり、あるいは得難い道具を手に入れることができたりする存在でもありました。
しかしロキを拘束することによりそのリソースが失われるとともに、ロキの神々に対する敵意は頂点に達することになったのです。
結論
北欧神話のラグナロクは、敵がい心をむき出しにしたロキが自分の子どもたちや大勢の巨人たちとともに神々に戦争を仕掛け、神々もそれに応じて戦い、両方とも滅びるというような、単純な物語ではないと思います。
その遠因は城壁修復の時点にあり、そこから神自ら破滅の伏線を張って滅亡していったというのが、今回私が参考として取り上げている『北欧神話」の著者クロスリィ・ホランドの見方でした。
北欧神話には、古代北欧人の世界観、人生観、そして世界の秩序を守るための規律というものが反映されている。それが この神話の大きなテーマだということなのです。
次のお話は、ラグナロクの直接の原因となった、光の神バルドルの死から始めます。
●参考にした図書
『北欧神話物語』K・クロスリイ・ホランド・著 山室静/米原まり子・訳 青土社
この本は3部に分かれており、「はしがき」に多くのページを割いてこの本の概要を解説し、「神話」の章は大地創造からラグナロクまでの各神話、そして「北欧神話ノート」で各神話についての解説が書かれている。





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