前回まで、数ある海賊の中でも超有名な海賊をご紹介してきました。では、16~18世紀あたりに活動した海賊たちはどのような生活をしてきたのでしょうか。その実態を探ってみたいと思います。
海賊のイメージって、皆さんにとってどのようなものでしょうか?
いつも飲んだくれている。戦闘によって片足を失った海賊は木の棒のような義足をつけている。巨大な帆船に向かって海賊船一隻で突っ込んでいき、カトラスという剣で戦う。刑罰には板渡りをさせる……。
具体的に想像を巡らせると、映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』で見せてくれる姿が私たちの思う海賊にイメージだったりします。でも実際はちょっと違うところもあるようです。
海賊の船
当時の木造帆船はとても脆弱で、ちょっとした強風でも船体はガタガタになりましたし、浸水はいつでも起こり得ました。船底は航海中に貝殻などが付着して船の航行を妨げます。また、海賊にとっては小型のほうが好ましいものです。大きな商船などを襲うには機動性が要求されるからです。もし海賊の船が大型だと足手まといになります。そこで喫水の浅いスループ船やスクーナー船が好まれました。逆にいえばそれだけ船体は小さく、積み込める荷物もあまり多くありません。
そこで海賊活動をする際には、船員を休ませたり船の修理や船底の清掃をしたり、食料や飲料水の補給をしたりするための島や港を必要としました。また、リスクをできるだけ減らすために船団を組んで行動しました。
たとえば、フランシス・ドレイクのように王室が後ろ盾にあるような場合は、十分な食料・飲料水を確保し、船団を組んで私掠活動(国の私兵として敵国の船を襲う行為。実情は海賊と同じ)をすることができました。しかし、普通の生活をしていてはうだつの上がらない人びとが、一獲千金を求めて海賊になる場合はどうでしょう?
これは想像ですが、何とかお金をためてボロボロの中古船を買って海賊稼業に乗り出す、あるいは難破した船を修理して使ったのかもしれません。
いずれにしても何とかして船を手に入れ、より優れた船を襲い掠奪することができたら、今度はその船を自分たちの船とし、それまで使っていた船は、僚船として積荷用に、あるいはボロボロなら捨ててバージョンアップしていきました。
ちなみに、フランシス・ドレイクも同じようにスペインやポルトガルの船を襲っては、イングランドの艦隊に組み込んでいました。
イギリスというと先進国というイメージがありますが、エリザベス女王の時代のイングランドは、スペインやポルトガルこそが先進国であり、イングランドは貧しい二流国にすぎませんでした。したがって王室の海軍といえども、当時は老朽化した船しか持っていなかったのです。それをドレイクはスペインやポルトガルの最新の船に置き換えていったわけです。
海賊船の環境
まず、フランシス・ドレイクが世界就航(世界一周)をした際に積み込んでいた積荷のリストを見てみましょう。
食料品としては、ビスケット、麦、ワイン、牛肉、豚肉、魚、バター、チーズオートミール、酢、蜂蜜など。肉や魚はすべて塩漬けにされていました。
その他に木材、石炭、キャンドル、ワックス、ランタン、革製の衣類、靴、帽子、各種食器など。
その他、小島などに上陸して飲料水などを確保するなどの目的で、小型船を曳航していたといいます。
これだけの準備をしてドレイクは世界周航を成功させたのですが、これは奇跡に近いことでした。
![]() |
ゴールデン・ハインド号のレプリカ |
では、普通に暮らしていてはうだつのあがらない下層民が、一獲千金を夢見て海賊となった場合はどうでしょう? 当然このような積荷を確保することなど無理で、航海中は毎日がぎりぎりの生活だったことが想像できます。
海賊船は小型のほうに分があります。海賊船が商船などを襲うときには、機動性が要求されます。スピードを生かして鈍重な商船を翻弄し戦闘を有利に運ぶ目的のため、スループ船やスクーナー船のように小型で喫水の浅い船が好まれました。喫水が浅いということは、大型船では座礁してしまうような遠浅の入江でも入り込めるという利点もあります。
しかし小型船の欠点として、荷物はそれほど積めないということがあります。
そこで一番の問題となるのは水です。イングランドでとれる水は硬水で、ただでさえお腹を壊しやすいうえにすぐに腐ったりします。積み込む量も少ないのですぐに枯渇します。
そのため、飲料水の代わりにラム酒やワインなどのお酒を日常的に飲んでいました。海賊の大半がアルコール中毒で、いつも飲んだくれているのは、水の問題が大きな原因です。
また食料の問題も深刻です。積み込んだ肉などもすぐに腐ります。ネズミやゴキブリなどが食べ散らかしもします。そんなものを食べたり飲んだりするので、船員は食中毒や壊血病などにかかりやすいという問題がありました。
また誰かが伝染病にかかると、船倉に押し込められるように生活していた船員たちは、大勢が瞬く間に感染しました。この環境に嫌気がさして自殺する海賊も出てきます。
こういったことが原因で死亡する人の数のほうが、戦闘による死亡者数より多かったといわれています。
海賊ファッション
海賊というと、船員は頭にバンダナ、腰にスカーフ、敗れたズボンにくたびれたブーツ。船長はジャック・スパロウのいでたちでしょうか。じつはこうしたイメージはアメリカの画家ハワード・パイルが創作したイメージなのです。
実際の海賊たちは、膝丈で切った大き目のズボンに、腿まである長めの上着という、18世紀の一般的な船乗りと同じようなファッションだったといいます。
このシリーズ「ラボ・ライブラリー研究 第8話」では、バーソロミュー・ロバーツが最期の闘いに一世一代の晴れ姿でのぞんだ、というお話を覚えておられる方もいらっしゃるでしょう。
ジョリー・ロジャー(海賊旗)の意味
![]() |
いろいろなジョリーロジャー |
海賊旗には黒旗と赤旗の2種類あります。黒旗は「命までは取らないから降伏しろ」という意味であり、赤旗は「皆殺し」を意味しました。
一般的なジョリー・ロジャーは、頭蓋骨と2本の交差した骨を描いたものですが、これはエドワード・イングランドなどの海賊が使用していました。これだけがジョリー・ロジャーだと思いがちですが、じつのところ他にもいくつか種類があります
また、ジョリー・ロジャーの他にも、海賊は各国の国旗を持っていることが多かったようです。獲物の商船に対して、味方であるように振舞うためその船の国旗を掲げておいて近づき、射程内に入ったと見るやジョリー・ロジャーを掲げて襲う、というわけです。
海賊が使用した武器
海賊にとって武器は何よりたいせつなものです。以前にご紹介した海賊の掟のなかに、武器の手入れを怠った場合の罰則が規定されていたことを覚えていらっしゃるでしょう。また武器は、多用途に応えられるような工夫をしたり殺傷能力を高める機能を追加したりしていました。
カトラス
ご存じカトラスは、刃が少し湾曲した形をした短剣で、持ち手のところに指を守るガードがついています。これは狭い場所でも戦え、指を切り落とされない工夫をしており、さらに肉をさばくのにも適しています。銃
この時代の銃や大砲はもちろん火縄を使っています。銃身や銃床を切り取ったマスケット銃のほか、ラッパ銃という特殊な銃もありました。ラッパ銃は一時にたくさんの弾を発射し、相手にいくつもの銃創を負わせることができました。大砲の弾
砲弾には、普通の砲弾(砲丸投げの砲丸のように撃ちだされても弾自体は爆発しない)のほか、鎖弾(2つの砲弾を鎖でつないだもの)やぶどう弾(小さな砲弾を複数詰めたもの)などが使用されました。これらの武器や旗による脅しは恐ろしく、海賊の攻撃をうけた商船などは、戦う前に白旗をあげることも多かったといいます。
To be continued
0 件のコメント:
コメントを投稿
お読みいただき、ありがとうございます。ぜひコメントを残してください。感想や訂正、ご意見なども書いていただけると励みになります