以前、女性が海賊船に乗ることを厳重に禁止し、万一乗船させた場合には死刑に処すると海賊バーソロミュー・ロバーツの船の掟には定められている、というお話をしました。
トラブルのもとであり、「海賊船に女が乗って、よかったためしはねえ」のです。
でもどんな場合でも例外はあるもので、じつは女海賊は存在していたのです。ご紹介する女海賊は二人で、同じ海賊船に乗っていたといいます。
数奇な運命をたどった、アン・ボニーとメアリー・リードの物語です。
アン・ボニーの場合
アン・ボニーのお父さんは弁護士でした。でもお母さんはお父さんの妻ではありません。家の手伝いをしていた美貌の女中さんでした。
夫の不義が発覚すると夫婦は別居します。夫はそれ以降も女中さんとの交際を続け、彼女はやがて女児を産みました。この娘がアン・ボニーです。
彼はアンに対する愛情が募り、引き取って一緒に住むことを決心します。しかし近所の人びとは、不義の子が女の子であることを知っていましたから、周りの目を欺くために男の子の格好をさせ、親戚の子を引き取って助手として育てているということにしました。
親戚にそんな男の子がいないことを知っている妻は、怒って毎年送っていた養育費を止めてしまいます。夫は腹いせに公然と女中さんとの同棲を始めますが、これがスキャンダルとなり、弁護士としての仕事がなくなって生活に困窮するようになりました。そこで、彼らは植民地カロライナに転居します。
新天地で弁護士を開業し後に商売を始めた彼は成功を収めますが、妻としてすごしてきた女中さんが急死します。家事は娘のアンがすることになりました。
アンは気性が激しく男まさり。腕っぷしも強く、若い男がアンを無理やりベッドに引きずり込もうとしたとき、彼女は男を思いっきり殴りつけ、しばらく動けない身体にしたという逸話があります。
そんな彼女も恋をします。相手は一文無しの船乗り。二人はアンの父親に無断で結婚しました。りっぱな男と結婚させたいと願っていた父親は承服できず、二人を追い出してしまいました。二人は職を求めてプロヴァンス島へ渡ります。
その島でアンは海賊ラカムと出会ってしまいました。
アンに横恋慕したラカムは、さまざまな手練手管をもってアンを自分のほうになびかせました。そしてある夜二人で駆け落ちし、アンは男装して彼とともに海賊稼業に乗り出しました。
アンは船上で立派に任務を果たしたといいます。それどころか、戦闘のときにはだれにもまして勇敢に戦いました。
メアリー・リードの場合
メアリー・リードの母親は若くして船乗りと結婚し、男児をもうけました。しかし夫は彼女が身重のときに船出して、そのまま帰ってきませんでした。海難事故に遭ったのかその他の理由で亡くなったのかは不明です。
母親は近所でも評判の良い女性でしたが、奔放な性格でもあり、誰の子か分からない子どもを身ごもってしまいます。身の不始末を隠すために、彼女は夫の親戚と別れて田舎に引っ越していき、女児を出産しました。これがメアリー・リードです。ところが、引っ越してすぐに夫との間に生まれた男児が亡くなってしまいました。
一家はその土地で4年過ごすうちに蓄えを使い果たしてしまい、困った母親は一計を案じます。残った女児を男の子に仕立てて亡くなった男児に見せかければ、夫の母親が養育費をだしてくれるのではと。そう思いついてロンドンに行き、二人を引き合わせました。
彼女の目論見通り、義母は毎週1クラウンの養育費を渡すことを約束します。
義母を騙し続けるため、メアリーはそのまま男の子として育てられました。母親はメアリーが物心のつく頃に出生の秘密を打ち明け、女ではあるが男として振舞うように、と言い含めます。
メアリーが13歳になるころ祖母が亡くなり、生計の途が途絶えてしまいました。そこでメアリーはフランス婦人の家に奉公に出されることになります。しかし、メアリーはそこに長くいませんでした。彼女は放浪の旅に出て、それから自らすすんで海軍に入隊します。
男の子として育てられた彼女は腕っぷしも強く勇敢だったので、女だとは見破られませんでした。彼女は、海軍、歩兵連隊、騎兵連隊と移っていき、いずれの場所でも戦闘において目覚ましい活躍をしました。
ところがメアリーは、戦友であるフレミング出身の美貌の青年に恋をします。それからは任務がおろそかになり武器の手入れもおざなりになって、戦闘の際は自分の危険を顧みず彼のために尽くすようになりました。相手の青年は、メアリーが女性だとは思っていないので、ごく普通に他の戦友と同じように接していました。
ある夜、たまたま二人が同じテントに寝ているとき、メアリーは自分が女であることを告白します。驚いた青年は、はじめは自分の情婦がもてると喜びましたが、メアリーの内気で慎み深い性格を知って考えを改め、ついには結婚を申し込むに至ります。
戦争が終わると、二人は慎ましやかな結婚式をあげて家庭をもち、小さな居酒屋を開きました。ところが幸せは長くは続きません。夫が急死したうえに、世の流れにより客足も途絶えました。
メアリーは店をたたみ、再び男装して軍隊に入隊します。そして、さまざまな軍歴をへて、海賊ラカムの船に乗りこむことになります。そこで、メアリーはアンに出会いました。
メアリーとアン、ふたりの女海賊
メアリーは何としてでも人生を切り開きたかったのです。海賊稼業は好きではなく、いつでも足を洗いたかったとのこと。そうはいっても勇気に欠けるところはいささかもなく、海賊船が捕らえられた時の闘いでは、甲板に最後まで残ったのはアンとこのメアリーだけだったといいます。
その時、本人は否定していますが、甲板の下に隠れた乗組員に対して「甲板に出て男らしく戦え」と叱咤して銃を船倉に向けてぶっ放したそうです。船の乗組員のなかで、メアリーを女ではないかと疑った者は誰もいませんでした。
そんなメアリーに対して、あろうことかアンが恋をします。メアリーを好男子だと思ったのです。そして恋を実らせようと、アンは自分が女であることを告白します。しかたなくメアリーは自分も女であることを打ち明けました。
一方、ラカムはアンをまだ好きでしたので、二人が親密になっていくのがおもしろくありません。ラカムが激昂するのを見ては、メアリーは彼にも秘密を打ち明けざるをえませんでした。
海賊船が西インド諸島を行き来する、ある商船を拿捕したときのことです。役に立ちそうな乗組員を強引に海賊仲間に引き入れることはよくあることで、この時も何人かを海賊に仕立てました。そのなかに、メアリーにとってとても魅力的な青年がいたのです。彼女はたちまち彼に恋をしてしまいました。
メアリーはまず男として彼に近づいていき、戦友として彼の尊敬を勝ち取ったところで自分が女であることを打ち明けました。
二人の恋が始まります。そしてこの恋は、メアリーをとても献身的にさせました。
ある日、恋人が別の海賊の一人とケンカをして、決闘することになりました。どうみても相手の方が青年より強そうです。不安でしかたなくなったメアリーは、その相手に決闘を申込みました。時間は、恋人と相手が決闘する2時間前です。そしてなんと、彼女は剣とピストルで渡り合って、相手を倒してしまったのです。
メアリーと青年は愛情を誓い合いました。やがてメアリーは身ごもります。一方、アンのほうもラカムの子を宿していました。そんなとき、ラカムの海賊船は捕らえられたのです。
海賊どもは縛り首になりましたが、この二人は妊娠をしているということで刑は延期され牢屋に収監されました。
ラカムが刑場に向かう日、特別な計らいによりアンは面会を許されます。アンはラカムを慰めるためにこんなことばをかけています。
「あたしはあんたが縛り首になるのは悲しいよ。だけどあんたがもっと男らしく戦っていたら、犬みたいに吊るされなくてもすんだんだよ」
その後、メアリーとアンはどうなったかといいますと……、
メアリーは、判決後間もなく獄中で熱病にかかって死亡。アンは、牢の中で出産するもその後どうなったかは不明、とのことです。
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写真は左にメアリー・リード、右がアン・ボニー |
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